まず、滴定曲線を描くための一般的な手順を説明します。
滴定曲線は、滴定剤の添加量に対して、被滴定溶液のpHの変化をプロットしたものです。滴定曲線を描くためには、滴定の各段階におけるpHを計算する必要があります。
(1) 塩酸(HCl)の滴定の場合
塩酸は強酸であるため、pHの計算は比較的簡単です。
* **滴定前:**
塩酸の濃度からpHを直接計算できます。
[H+]=0.100 mol/L pH=−log10[H+]=−log10(0.100)=1 * **滴定中:**
添加したNaOHの量に応じて、塩酸が中和されていきます。未反応の塩酸の濃度を計算し、そこからpHを求めます。
例えば、10 mLのNaOHを加えた場合:
NaOHのモル数 = 0.100 mol/L×0.010 L=0.0010 mol HClの初期モル数 = 0.100 mol/L×0.025 L=0.0025 mol 未反応のHClのモル数 = 0.0025 mol−0.0010 mol=0.0015 mol 溶液の総体積 = 25 mL+10 mL=35 mL=0.035 L 未反応のHClの濃度 = 0.035 L0.0015 mol≈0.0429 mol/L pH=−log10(0.0429)≈1.37 * **当量点:**
塩酸と水酸化ナトリウムが完全に中和される点です。強酸と強塩基の中和であるため、pHは7となります。
この場合、当量点はNaOHを25 mL加えたときです。
* **当量点以降:**
過剰に添加された水酸化ナトリウムによってpHが上昇します。過剰な水酸化ナトリウムの濃度を計算し、pOHを求めてからpHを計算します (pH=14−pOH)。 (2) 酢酸(CH3COOH)の滴定の場合
酢酸は弱酸であるため、pHの計算が塩酸よりも複雑になります。
* **滴定前:**
酢酸の電離平衡を考慮してpHを計算します。酢酸の酸解離定数 Ka を知っておく必要があります。ここでは Ka=1.8×10−5とします。 CH3COOH⇌CH3COO−+H+ Ka=[CH3COOH][CH3COO−][H+] 初期濃度をCとすると、電離度をαとして
Ka=C(1−α)(Cα)(Cα)≈Cα2 α=CKa=0.1001.8×10−5≈0.0134 [H+]=Cα=0.100×0.0134≈0.00134 mol/L pH=−log10(0.00134)≈2.87 * **滴定中:**
酢酸と水酸化ナトリウムの中和反応により、酢酸ナトリウムという弱塩基が生成します。この混合溶液は緩衝溶液として働き、ヘンダーソン-ハッセルバルヒの式を使ってpHを計算できます。
pH=pKa+log10[CH3COOH][CH3COO−] pKa=−log10(Ka)=−log10(1.8×10−5)≈4.74 例えば、10 mLのNaOHを加えた場合:
NaOHのモル数 = 0.100 mol/L×0.010 L=0.0010 mol 酢酸の初期モル数 = 0.100 mol/L×0.025 L=0.0025 mol 酢酸ナトリウムのモル数 = 0.0010 mol 未反応の酢酸のモル数 = 0.0025 mol−0.0010 mol=0.0015 mol [CH3COO−]≈0.035 L0.0010 mol [CH3COOH]≈0.035 L0.0015 mol pH=4.74+log100.00150.0010≈4.74+log10(0.667)≈4.56 * **半当量点:**
酢酸の半分の量が中和された点。このとき [CH3COO−]=[CH3COOH]となり、pH=pKaとなります。この場合、半当量点はNaOHを12.5 mL加えたときです。 * **当量点:**
酢酸と水酸化ナトリウムが完全に中和される点。酢酸ナトリウムは弱塩基なので、pHは7よりも高くなります。
酢酸ナトリウムの加水分解を考慮してpHを計算する必要があります。
CH3COO−+H2O⇌CH3COOH+OH− Kb=KaKw=1.8×10−51.0×10−14≈5.56×10−10 当量点における酢酸ナトリウムの濃度をC'とすると、
[OH−]=KbC′ pOH=−log10[OH−] pH=14−pOH * **当量点以降:**
過剰に添加された水酸化ナトリウムによってpHが上昇します。