$T^n = \mathbb{R}^n / \mathbb{Z}^n$ を $n$ 次元トーラスとし、写像 $f: T^n \rightarrow T^n$ を $f([x]) = [Ax + \alpha]$ で定義する。ここで、$A \in GL_n(\mathbb{Z})$ は行列式が $\pm 1$ の整数係数正則行列、$\alpha \in \mathbb{R}^n$ は任意のベクトル、$ [x] \in T^n$ は $x \in \mathbb{R}^n$ の同値類を表す。以下の問いに答える。 (1) $f$ が連続写像であることを示せ。 (2) $f$ は測度保存的(ルベーグ測度を保つ)かどうかを調べよ。 (3) $A$ の固有値がすべて $1$ のとき、$f$ の巡回軌道が稠密になるための $\alpha$ の条件を述べよ。 (4) $n=2$ の場合で、具体的な $A, \alpha$ を与えて、$f$ がエルゴード的であることを示せ。

解析学トーラス写像連続写像測度保存エルゴード性線形代数群論
2025/6/1
以下に、問題の解答を示します。

1. 問題の内容

Tn=Rn/ZnT^n = \mathbb{R}^n / \mathbb{Z}^nnn 次元トーラスとし、写像 f:TnTnf: T^n \rightarrow T^nf([x])=[Ax+α]f([x]) = [Ax + \alpha] で定義する。ここで、AGLn(Z)A \in GL_n(\mathbb{Z}) は行列式が ±1\pm 1 の整数係数正則行列、αRn\alpha \in \mathbb{R}^n は任意のベクトル、[x]Tn [x] \in T^nxRnx \in \mathbb{R}^n の同値類を表す。以下の問いに答える。
(1) ff が連続写像であることを示せ。
(2) ff は測度保存的(ルベーグ測度を保つ)かどうかを調べよ。
(3) AA の固有値がすべて 11 のとき、ff の巡回軌道が稠密になるための α\alpha の条件を述べよ。
(4) n=2n=2 の場合で、具体的な A,αA, \alpha を与えて、ff がエルゴード的であることを示せ。

2. 解き方の手順

(1) 連続性
射影 π:RnTn\pi: \mathbb{R}^n \rightarrow T^nπ(x)=[x]\pi(x) = [x] で定義すると、π\pi は連続である。写像 g:RnRng: \mathbb{R}^n \rightarrow \mathbb{R}^ng(x)=Ax+αg(x) = Ax + \alpha で定義すると、AA が線形写像であり、α\alpha が定数ベクトルなので、gg は連続である。すると、f([x])=[Ax+α]=π(Ax+α)=π(g(x))f([x]) = [Ax + \alpha] = \pi(Ax + \alpha) = \pi(g(x)) であるから、 fπ=πgf \circ \pi = \pi \circ g が成り立つ。したがって、ff が連続であるためには、任意の開集合 UTnU \subset T^n に対して、f1(U)={[x]Tnf([x])U}f^{-1}(U) = \{ [x] \in T^n | f([x]) \in U \}TnT^n で開集合となる必要がある。
f1(U)={[x]Tn[Ax+α]U}=π(g1(π1(U)))f^{-1}(U) = \{ [x] \in T^n | [Ax + \alpha] \in U \} = \pi ( g^{-1} ( \pi^{-1} (U)) )
π\pi は連続なので π1(U)\pi^{-1}(U)は開集合であり、gg も連続なので g1(π1(U))g^{-1} ( \pi^{-1} (U)) も開集合である。したがって、f1(U)f^{-1}(U)TnT^n で開集合となり、ff は連続である。
(2) 測度保存性
AGLn(Z)A \in GL_n(\mathbb{Z}) であり、det(A)=±1\det(A) = \pm 1 なので、AA はルベーグ測度を保つ。つまり、任意の可測集合 ERnE \subset \mathbb{R}^n に対して、m(AE)=det(A)m(E)=m(E)m(AE) = |\det(A)|m(E) = m(E) が成り立つ。ただし、mm はルベーグ測度を表す。
TnT^n 上のルベーグ測度を μ\mu とすると、μ([E])=m(E[0,1)n)\mu([E]) = m(E \cap [0,1)^n) となる。f([x])=[Ax+α]f([x]) = [Ax + \alpha] であり、AA はルベーグ測度を保つので、
μ(f([E]))=μ([AE+α])=m((AE+α)[0,1)n)=m(AE[α,1α)n)=m(EA1[α,1α)n)\mu(f([E])) = \mu([AE + \alpha]) = m((AE + \alpha) \cap [0,1)^n) = m(AE \cap [-\alpha, 1-\alpha)^n) = m(E \cap A^{-1}[-\alpha, 1-\alpha)^n)
ここで、A1GLn(Z)A^{-1} \in GL_n(\mathbb{Z}) なので、A1[α,1α)nA^{-1}[-\alpha, 1-\alpha)^n は平行移動と整数格子 Zn\mathbb{Z}^n に関する不変性を持つ。したがって、ff は測度保存的である。
(3) 稠密条件
AA の固有値がすべて 11 のとき、AA はユニポテント行列である。f([x])=[Ax+α]f([x]) = [Ax + \alpha] の巡回軌道 {fk([x])kZ}\{ f^k([x]) | k \in \mathbb{Z} \}TnT^n で稠密となるためには、α\alpha の成分が Z\mathbb{Z} 上線形独立である必要がある。つまり、k1α1++knαnZk_1 \alpha_1 + \dots + k_n \alpha_n \in \mathbb{Z} となる整数 k1,,knk_1, \dots, k_n がすべて 00 である場合に限る必要がある。
(4) エルゴード性 (n=2n=2)
n=2n=2 の場合で、A=(1112)A = \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & 2 \end{pmatrix}α=(2,3)T\alpha = (\sqrt{2}, \sqrt{3})^T を考える。det(A)=21=1\det(A) = 2 - 1 = 1 であり、AGL2(Z)A \in GL_2(\mathbb{Z}) である。
f([x])=[Ax+α]f([x]) = [Ax + \alpha] がエルゴード的であるためには、ff が混合的であることが必要十分である。
AA の固有値は λ1=3+52>1\lambda_1 = \frac{3 + \sqrt{5}}{2} > 1λ2=352<1\lambda_2 = \frac{3 - \sqrt{5}}{2} < 1 であり、AA は双曲型である。また、α\alpha の成分 2\sqrt{2}3\sqrt{3} は無理数であり、Q\mathbb{Q} 上線形独立である。したがって、ff はエルゴード的である。
(補足) エルゴード的であることは、ほとんどすべての初期点 xx に対して、その軌道が T2T^2 上で稠密であることを意味する。

3. 最終的な答え

(1) ff は連続写像である。
(2) ff は測度保存的である。
(3) AA の固有値がすべて 11 のとき、ff の巡回軌道が稠密になるための α\alpha の条件は、α\alpha の成分が Z\mathbb{Z} 上線形独立であることである。
(4) n=2n=2 の場合、A=(1112)A = \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & 2 \end{pmatrix}α=(2,3)T\alpha = (\sqrt{2}, \sqrt{3})^T を与えると、ff はエルゴード的である。

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