質量 $m$ のビーズが、半径 $a$ の摩擦のない円形ワイヤーリングに通されている。リングは垂直面にあり、垂直方向の直径を回転軸として、一定の角速度 $\omega$ で回転している。ビーズの平衡位置と安定性について、非慣性系における運動方程式とポテンシャルエネルギーを用いて考察する。問題は(a)から(g)の7つの小問に分かれている。 (a) $r$ 方向の単位ベクトルを $e_r$、$\theta$ 方向の単位ベクトルを $e_\theta$ とする。重力加速度 $g$、加速度ベクトル $a$、角速度ベクトル $\omega$ をそれぞれ表せ。 (b) 非慣性系の運動方程式を立て、$ \ddot{\theta} = -g/a \sin\theta + \omega^2 \sin\theta \cos\theta $ が得られることを示し、角速度 $\omega$ に臨界値が存在し、その値によって $\theta$ の平衡位置が変化することを論じよ。 (c) ビーズの平衡位置を $\theta_0$ として、$\theta = \theta_0 + \delta\theta$ のように、平衡位置から僅かにずれた場合の挙動が $ \frac{d^2\delta\theta}{dt^2} + (1 - \frac{g}{a\omega^2})\omega^2\delta\theta = 0 $ で表されることを示せ。 (d) 式 (2) の意味を考察し、ビーズがどのような挙動を示すかを論じよ。 (e) 非慣性系におけるビーズのポテンシャルエネルギー $V$ を、重力による位置エネルギーと遠心力ポテンシャルの和として求めよ。 (f) $V(\theta)$ のグラフを描き、$V(\theta)$ からビーズの平衡位置を求めよ。 (g) $V(\theta)$ のグラフに基づき、角速度 $\omega$ によってビーズの安定点、および不安定点が変化する様子を論じよ。

1. 問題の内容

質量 $m$ のビーズが、半径 $a$ の摩擦のない円形ワイヤーリングに通されている。リングは垂直面にあり、垂直方向の直径を回転軸として、一定の角速度 $\omega$ で回転している。ビーズの平衡位置と安定性について、非慣性系における運動方程式とポテンシャルエネルギーを用いて考察する。問題は(a)から(g)の7つの小問に分かれている。

(a) $r$ 方向の単位ベクトルを $e_r$、$\theta$ 方向の単位ベクトルを $e_\theta$ とする。重力加速度 $g$、加速度ベクトル $a$、角速度ベクトル $\omega$ をそれぞれ表せ。

(b) 非慣性系の運動方程式を立て、$\ddot{\theta} = -g/a \sin\theta + \omega^2 \sin\theta \cos\theta$ が得られることを示し、角速度 $\omega$ に臨界値が存在し、その値によって $\theta$ の平衡位置が変化することを論じよ。

(c) ビーズの平衡位置を $\theta_0$ として、$\theta = \theta_0 + \delta\theta$ のように、平衡位置から僅かにずれた場合の挙動が $\frac{d^2\delta\theta}{dt^2} + (1 - \frac{g}{a\omega^2})\omega^2\delta\theta = 0$ で表されることを示せ。

(d) 式 (2) の意味を考察し、ビーズがどのような挙動を示すかを論じよ。

(e) 非慣性系におけるビーズのポテンシャルエネルギー $V$ を、重力による位置エネルギーと遠心力ポテンシャルの和として求めよ。

(f) $V(\theta)$ のグラフを描き、$V(\theta)$ からビーズの平衡位置を求めよ。

(g) $V(\theta)$ のグラフに基づき、角速度 $\omega$ によってビーズの安定点、および不安定点が変化する様子を論じよ。

2. 解き方の手順

(a)

* 重力加速度ベクトル: $g = -g e_r \cos\theta + g e_\theta \sin\theta$

* 角速度ベクトル: $\omega = \omega k$ (kは垂直上向き単位ベクトル)

* 加速度ベクトルは非慣性系の効果（遠心力、コリオリ力）を考慮する必要がある。詳細は(b)で扱う。

(b)

* 非慣性系における運動方程式は、$ma = F - ma_0 - 2m(v' \times \omega) - m(\omega \times ( \omega \times r))$となる。ここで、$F$ は外力、$a_0$ は座標系の並進加速度、$v'$ は回転系における速度、$r$ は位置ベクトル。

* この問題では、$F = -mg \cos\theta e_r +mg \sin\theta e_\theta$、$a_0 = 0$。また、$r = a e_r$。

* コリオリ力は制約条件により無視できる。

* 遠心力は $- m(\omega \times ( \omega \times r)) = m\omega^2 a \sin\theta (\sin\theta e_r + \cos\theta e_\theta)$

* 運動方程式の $\theta$ 成分は $ma\ddot{\theta} = mg\sin\theta + m\omega^2 a \sin\theta \cos\theta$。よって、$\ddot{\theta} = -g/a \sin\theta + \omega^2 \sin\theta \cos\theta$

臨界角速度 $\omega_c$ を考える。平衡位置 $\theta_0$ では $\ddot{\theta}=0$ なので、$-g/a \sin\theta_0 + \omega^2 \sin\theta_0 \cos\theta_0 = 0$。

$\sin\theta_0 ( \omega^2 \cos\theta_0 - g/a ) = 0$。

よって、$\sin\theta_0 = 0$ または $\cos\theta_0 = g/(a\omega^2)$。

$\omega < \sqrt{g/a}$ のとき、$\theta_0 = 0, \pi$。

$\omega > \sqrt{g/a}$ のとき、$\theta_0 = 0, \pi, \pm \arccos(g/(a\omega^2))$。臨界角速度は $\omega_c = \sqrt{g/a}$ であり、$\omega$ が $\omega_c$ より大きいと、新たな平衡位置が現れる。

(c)

* $\theta = \theta_0 + \delta\theta$ を (1) 式に代入する。

* $\ddot{\delta\theta} = -g/a \sin(\theta_0+\delta\theta) + \omega^2 \sin(\theta_0+\delta\theta) \cos(\theta_0+\delta\theta)$

* $\delta\theta$ が小さいとして、$\sin(\theta_0+\delta\theta) \approx \sin\theta_0 + \cos\theta_0 \delta\theta$、$\cos(\theta_0+\delta\theta) \approx \cos\theta_0 - \sin\theta_0 \delta\theta$ と近似する。

* 平衡条件 $-g/a \sin\theta_0 + \omega^2 \sin\theta_0 \cos\theta_0 = 0$ を用いる。

* $\ddot{\delta\theta} = (-g/a \cos\theta_0 + \omega^2 \cos^2\theta_0 - \omega^2 \sin^2\theta_0)\delta\theta$

* $\theta_0 = 0, \pi$ のとき、$\ddot{\delta\theta} = (-g/a + \omega^2)\delta\theta = ( \omega^2 - g/a)\delta\theta$。これは$\ddot{\delta\theta} + (g/a-\omega^2)\delta\theta = 0$ と書ける。

* $\theta_0 = \arccos(g/(a\omega^2))$ のとき、$\cos\theta_0 = g/(a\omega^2)$ なので、$\ddot{\delta\theta} = (-g/a \cdot g/(a\omega^2) + \omega^2 (g/(a\omega^2))^2 - \omega^2 (1-(g/(a\omega^2))^2)) \delta\theta = \omega^2 ((g/(a\omega^2))^2 - 1) \delta\theta$ となる。これは $\ddot{\delta\theta} + \omega^2 (1-(g/(a\omega^2))^2) \delta\theta = 0$ と書ける。

一般に $\frac{d^2\delta\theta}{dt^2} + (1 - \frac{g}{a\omega^2})\omega^2\delta\theta = 0$

(d)

* 式 (2) は単振動の式である。係数 $(1 - \frac{g}{a\omega^2})\omega^2$ が正なら、ビーズは平衡位置の周りで振動する。

* $(1 - \frac{g}{a\omega^2})\omega^2$が負なら、ビーズは平衡位置から遠ざかる方向に指数関数的に変化する。

(e)

* 重力による位置エネルギー: $V_g = mga \cos\theta$

* 遠心力ポテンシャル: $V_{cf} = -\frac{1}{2} m (\omega \times r)^2 = -\frac{1}{2} m a^2 \omega^2 \sin^2\theta$

* ポテンシャルエネルギー: $V(\theta) = V_g + V_{cf} = mga \cos\theta - \frac{1}{2} m a^2 \omega^2 \sin^2\theta$

(f)

* $V(\theta)$ のグラフを描く。$V(\theta)$を微分して $V'(\theta) = -mga \sin\theta - ma^2 \omega^2 \sin\theta \cos\theta = -ma\sin\theta (g + a\omega^2 \cos\theta)$

* $V'(\theta) = 0$ を解いて平衡位置を求める。$\sin\theta = 0$ より $\theta = 0, \pi$。$\cos\theta = -g/(a\omega^2)$ より $\theta = \pm \arccos(-g/(a\omega^2))$。

(g)

* $V(\theta)$ のグラフの形状は $\omega$ によって変化する。

* $\omega < \sqrt{g/a}$ のとき、$\theta = 0$ が安定点、$\theta = \pi$ が不安定点。

* $\omega > \sqrt{g/a}$ のとき、$\theta = \pm \arccos(-g/(a\omega^2))$ が安定点、$\theta = 0, \pi$ が不安定点。

3. 最終的な答え

(a) $g = -g e_r \cos\theta + g e_\theta \sin\theta$, $\omega = \omega k$, $a$: 解答を参照。

(b) $\ddot{\theta} = -g/a \sin\theta + \omega^2 \sin\theta \cos\theta$, $\omega_c = \sqrt{g/a}$

(c) $\frac{d^2\delta\theta}{dt^2} + (1 - \frac{g}{a\omega^2})\omega^2\delta\theta = 0$

(d) 解答を参照。

(e) $V(\theta) = mga \cos\theta - \frac{1}{2} m a^2 \omega^2 \sin^2\theta$

(f) 解答を参照。

(g) 解答を参照。