問題は以下の2点を示せというものです。 * べき零行列 $A$ は正則ではない。 * 任意の実数 $c$ に対して、$I + cA$ は正則である。ここで、$I$ は単位行列を表す。

代数学線形代数行列べき零行列逆行列正則行列
2025/5/8

1. 問題の内容

問題は以下の2点を示せというものです。
* べき零行列 AA は正則ではない。
* 任意の実数 cc に対して、I+cAI + cA は正則である。ここで、II は単位行列を表す。

2. 解き方の手順

(1) べき零行列 AA は正則ではないことの証明
べき零行列とは、Ak=0A^k = 0 となる正の整数 kk が存在する行列のことです。AA が正則であると仮定すると、逆行列 A1A^{-1} が存在します。
Ak=0A^k = 0 の両辺に (A1)k(A^{-1})^k をかけると、
Ak(A1)k=0(A1)kA^k (A^{-1})^k = 0 (A^{-1})^k
(AA1)k=0(A A^{-1})^k = 0
Ik=0I^k = 0
I=0I = 0
これは矛盾です。したがって、AA は正則ではありません。
(2) 任意の実数 cc に対して I+cAI + cA は正則であることの証明
AA をべき零行列とし、Ak=0A^k = 0 となる正の整数 kk が存在するとします。
I+cAI + cA の逆行列が (I+cA)1=i=0k1(c)iAi(I + cA)^{-1} = \sum_{i=0}^{k-1} (-c)^i A^i で与えられることを示します。
(I+cA)i=0k1(c)iAi=i=0k1(c)iAi+i=0k1(c)iAi+1(I + cA) \sum_{i=0}^{k-1} (-c)^i A^i = \sum_{i=0}^{k-1} (-c)^i A^i + \sum_{i=0}^{k-1} (-c)^i A^{i+1}
=i=0k1(c)iAi+i=1k(c)i1Ai= \sum_{i=0}^{k-1} (-c)^i A^i + \sum_{i=1}^{k} (-c)^{i-1} A^{i}
=I+i=1k1(c)iAi+i=1k1(c)i1Ai+(c)k1Ak= I + \sum_{i=1}^{k-1} (-c)^i A^i + \sum_{i=1}^{k-1} (-c)^{i-1} A^{i} + (-c)^{k-1} A^k
=I+i=1k1[(c)i+(c)i1]Ai+(c)k1Ak= I + \sum_{i=1}^{k-1} [(-c)^i + (-c)^{i-1}] A^i + (-c)^{k-1} A^k
Ak=0A^k=0より、
=I+i=1k1[(c)i+(c)i1]Ai= I + \sum_{i=1}^{k-1} [(-c)^i + (-c)^{i-1}] A^i
=I+i=1k1(c)i1Ai(c+1)=I + \sum_{i=1}^{k-1} (-c)^{i-1} A^i (-c + 1)
上の式の第二項は打ち消しあって0になるので、
=I= I
したがって、(I+cA)1=i=0k1(c)iAi(I + cA)^{-1} = \sum_{i=0}^{k-1} (-c)^i A^i(I+cA)(I + cA) の逆行列となります。
つまり、I+cAI + cA は正則です。

3. 最終的な答え

* べき零行列 AA は正則ではない。
* 任意の実数 cc に対して、I+cAI + cA は正則である。